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呼吸リハビリテーションの目的と効果|正しい呼吸法でQOL向上を

息を吸ったり吐いたりする呼吸は、人間が生きる上で欠かせない重要な動作です。呼吸は普段、無意識に行っていますが、体が弱った高齢者の中には十分に呼吸できず、息苦しさを感じている人もいます。
呼吸の際に使う筋肉などをトレーニングし、呼吸をスムーズにすることを「呼吸リハビリテーション」といいます。呼吸器疾患による息苦しさを改善し、いきいきと充実した生活を送れるようにするのが目的です。
今回は、これから介護を始める人や、現在介護に携わっている人に向けて、呼吸リハビリテーションの効果や正しい方法をご紹介します。

呼吸リハビリテーションイメージ1

呼吸リハビリテーションとは?

呼吸リハビリテーションへの理解を深めるために、まずはその目的と効果についてお伝えします。

呼吸リハビリテーションの目的

人間の身体は、動かさなくなればなるほど、少しずつ衰えていきます。
それまで普通に日常生活を送っていた人が、加齢とともに買い物や散歩の最中に息苦しさや息切れを覚えるようになると、体を動かすこと自体が億劫になり家に引きこもりがちになります。その結果、動かさなくなった体の筋力が衰えて足腰が弱り、ますます外出や運動を控えるといった悪循環に陥ります。状態が悪化すると、最後は寝たきりになる場合もあります。直接的ではないにせよ、呼吸器疾患は体全体の機能低下につながる可能性が高いのです。

呼吸リハビリテーションとは、そうした負のスパイラルを断ち切り、健康を維持するために呼吸器の運動機能を向上・改善させることです。
呼吸に関わる筋力の向上や、足腰の筋力強化、胸郭や呼吸に必要な筋肉の柔軟性保持・改善などのリハビリテーションを行い、「呼吸困難感(=息苦しさ)の軽減」と「体力面の強化」を図ることで、「QOL(quality of life=生活の質)」を向上させます。

呼吸リハビリテーションの効果

胸郭や呼吸に必要な筋肉を柔らかくすると、まずは息苦しさが改善され、楽に呼吸ができるようになります。
また、呼吸に関わる筋力を向上させることで、自力で痰を出せるようになります。痰をうまく排出できない場合、痰に含まれる細菌が気管に入り込み、肺炎を引き起こしてしまう可能性があるので、自力排痰は、高齢者に必要な訓練といえます。

さらに、呼吸リハビリテーションを通じて正しい呼吸方法やセルフケア・セルフトレーニングの方法を身に付けると、呼吸が楽になるだけでなく、仮に息苦しさを感じたときも自分自身でコントロールし、改善できるようになります。

楽に呼吸をできるようになれば、積極的に外出をしたり、活動範囲を広げたりするようになり、QOLの向上につながります。結果として、うつ病などの精神疾患の予防効果も期待できます。

呼吸リハビリテーションの対象となる疾患

呼吸リハビリテーションの対象となる疾患について詳しくご説明します。

肺気腫

肺気腫は、慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)の一つです。
気管支の先端にある「肺胞」が壊れ、「気腫性嚢胞(きしゅせいのうほう)」というものが多くできてしまう疾患です。正常な肺胞が減少することで呼吸面積が減り、体が必要とする酸素の取り入れが難しくなります。
息切れ、咳、痰、体重減少、動悸などの症状が出ることが多く、嚥下障害を引き起こすこともあります。

慢性気管支炎

慢性気管支炎は、検査を行っても原因不明の咳や痰、息切れなどの症状が長期にわたって続く疾患です(「年に3カ月以上」が2年以上続く場合)。原因が明らかな場合は、慢性気管支炎とは診断されません。
慢性気管支炎の多くは、肺気腫を伴って発症すると考えられていて、それらをまとめて慢性閉塞性肺疾患(COPD)と診断します。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

前出の肺気腫や慢性気管支炎を総称したものが、慢性閉塞性肺疾患(COPD)です。
気管支や肺などに障害が発症する病気です。
息切れや息苦しさを感じたり、咳や痰が慢性的に続いたりする症状が特徴です。
長期間の喫煙に起因していると考えられているため、「肺の生活習慣病」ともいわれています。

呼吸器感染(結核やコロナウイルス感染、肺炎など)

一般的に細菌やウイルスといった病原体が肺に侵入して、感染・炎症を引き起こす疾患のことを指します。
発症すると風邪に似た症状が出ますが、38度以上の高熱や咳や痰が続いたり、胸部の痛みや息苦しさ、倦怠感、頭痛、関節痛、悪寒、食欲不振などの症状が見られたりします。
また、最近ではコロナ感染後に中長期で呼吸苦が続く例も増えています。

食道や肺の手術をした後

全身麻酔による開胸手術を行って治療入院した場合、麻酔の影響や開胸部の痛みなどから、深く息が吸えずに呼吸が浅くなったり、咳に伴う痛みによって痰をうまく排出することが困難になったりすることがあります。
その結果、無気肺や肺炎などの合併症を引き起こす可能性が高まります。

呼吸リハビリテーションイメージ2

呼吸リハビリテーションの方法

呼吸リハビリテーションは、専門の医師や作業療法士、理学療法士などの指導のもとに行われます。ここでは、実践される主なリハビリテーションの具体例をご紹介します。

正しい呼吸法の取得

常に質の良い呼吸を行い、体内の換気能力の向上を目的とした正しい呼吸法を習得します。
一つ目は「腹式呼吸」です。
横隔膜を使いお腹から呼吸することで、一度の換気量(呼吸によって得られる空気の量)が増加し、効率的に無駄なく呼吸できるようになります。

腹式呼吸の方法

  1. 仰向けに寝て、片手を腹部、もう一方の手を胸部の上に置きます
  2. 「1、2」とゆっくり数を数えながら鼻から息を吸います。そのとき、腹部が吸った空気で持ち上がるのを意識してください
  3. 「3、4、5」とゆっくり数を数えながら、今度は口から息を吐いていきます。そのとき、腹部を軽く押さえながら息を吐いていってください

※施設や担当者によって、その実施方法が異なる場合があります。

二つ目は「口すぼめ呼吸」です。
呼吸器疾患のある人は、気道が細く塞がりやすい傾向がありますが、口すぼめ呼吸を繰り返すことで気道を拡張し、息を吐きやすくします。

口すぼめ呼吸の方法

  1. 腹式呼吸と同様、「1、2」とゆっくり数を数えながら、鼻から息を吸います
  2. 「3、4、5、6」とゆっくり数を数えながら、吸ったときの倍の時間をかけて、ゆっくりと息を吐いていきます。その際、ロウソクなどの火を消すときのように口をすぼめてください。

※施設や担当者によって、その実施方法が異なる場合があります。

二つの呼吸法を毎日訓練しながら、腹式呼吸を身に付けます。

排痰法

痰は、吸い込んだ空気中の細菌や体内の分泌物などが、気道の粘膜に付着することで発生します。
通常時はほとんど吐き出すようなことはありませんが、体調不良時に分泌物が増加したり、また呼吸機能が弱まって気道内気流低下が発生したりすると、痰の量が増加します。
痰が溜まりやすくなると、気道が狭くなり息切れを起こしやすくなるので、排痰法を身に付けておくことが大切です。
ここでは、「ハフィング」という方法の手順をお伝えします。

  1. 数回深呼吸をした後、勢いよく「ハッ!ハッ!」と声を出さずに息を吐き出し、胸部を圧迫します
  2. その後、軽く「コホン」と咳をします。そのときに痰が出てくれば成功です。

※施設や担当者によって、その実施方法が異なる場合があります。

運動療法

運動療法は、体の筋力を維持し、また、有酸素運動を取り入れることで呼吸機能の維持や改善を目的としています。
具体的には、主に以下のような運動療法があります。


・歩行トレーニング
ウォーキングは、安全かつ比較的楽に続けられる運動の一つです。
足腰をはじめとする体全体の筋肉を鍛え、心肺機能の改善、息苦しさや息切れなどの症状の改善を目指します。


・筋力トレーニング
特に足腰の筋肉を重点的に鍛えることで筋力の維持・改善を図り、外出時などの息苦しさや息切れ、疲労感の軽減と改善を目指します。
患者一人ひとりの状態に合わせ、無理のない範囲でトレーニングを行います。


・ストレッチ
呼吸器疾患を持つ人は、胸部の筋肉が硬くなり十分に作動していない場合が多く、呼吸をするだけでも必要以上のエネルギーを消費しています。そのまま運動などをしても、息苦しさや疲労感を増幅させ、非効率的であるため、呼吸筋をしっかりとストレッチして胸郭が広がりやすい状態をつくり、効率的で楽な呼吸運動ができるように導きます。

需要の高まりが予想される呼吸リハビリテーションの今後

呼吸リハビリテーションは、病院での酸素吸入や薬物療法などの外的な治療とは異なり、体を内側から改善していく治療法の一つです。
外的な治療と同時に行うことで、高齢者の健康面に大きな効果が期待できます。「身体のマイナス面をゼロに戻す」だけではなく、「マイナス面をプラスに変える」ことが期待できるのが呼吸リハビリテーションなのです。
ますます高齢化社会が進む日本において、呼吸リハビリテーションは、一人でも多くの高齢者が自分らしく充実した生活を送れるようにするために、重要な役割を担っています。今後さらに需要が高まるでしょう。

この記事の監修者

    

在宅緩和ケア充実診療所・機能強化型在宅療養支援診療所
城北さくらクリニック
院長 犬丸秀雄
HP:http://houmon-shinryo.jp/jsc/

日本大学医学部卒業後、日本大学板橋病院(麻酔科・救命救急・ICU)を経て、赤塚駅前クリニックを開業し往診も行う。平成24年より、東京都練馬区を中心に訪問診療専門の診療所を開設。
24時間体制、コールセンター設置等を整備し、医師11名・看護師5名(令和3年6月現在)でご自宅や施設へ訪問診療を行っている。

※本記事の内容は、公的機関の掲出物ではありません。記事掲載日時点の情報に基づき作成しておりますが、最新の情報を保証するものではございません。

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